特則電子申請における代理権限証明書(委任状)の提供に関する考察
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まずは,特則電子申請についての不動産登記令の条文を見てみましょう。
(表示に関する登記の添付情報の特則)
第十三条 前条第二項の規定にかかわらず,電子情報処理組織を使用する方法により表示に関する登記を申請する場合において,当該申請の添付情報(申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの並びに土地所在図,地積測量図,地役権図面,建物図面及び各階平面図を除く。)が書面に記載されているときは,当該書面に記載された情報を電磁的記録に記録したものを添付情報とすることができる。この場合において,当該電磁的記録は,当該電磁的記録を作成した者による電子署名が行われているものでなければならない。
2 前項の場合において,当該申請人は,登記官が定めた相当の期間内に,登記官に当該書面を提示しなければならない。
はい。いわゆる特則電子申請を定めた令13条ですが,かっこ書きにより,「申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの並びに土地所在図,地積測量図,地役権図面,建物図面及び各階平面図」を除外しています。
後ろの図面系はいいのですが,前の「申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの」が今回の研究テーマです。
代理権限証明書(委任状)は,元来「申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの」であるから,特則電子申請の方法により提供することができないとされていました。
実務でも(少なくとも中山の周辺は)そうしていましたし,試験対策的な根拠として,以下の土地家屋調査士試験過去問があります。
平成22年度 問16
問 電子申請の方法(書面を提出する方法により添付情報を提供する場合を除く。)により表示に関する登記を申請する場合に登記所に提供する次のアからオまでの添付情報のうち,その情報が書面に記載されているときは,当該書面を電磁的記録に記録したもので,当該電磁的記録に当該電磁的記録の作成者の電子署名が行われているものを添付情報とすることができるものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 建物の表題登記を代理人によって申請する場合に提供する当該建物の所有者が作成した代理権限を証する情報
答 電磁的記録に記録したものを添付情報とすることができない
代理権限証明情報として提供する委任状は申請人が作成した書面であるから,スキャナにより電磁的記録に記録し,作成者が電子署名したものを送信して提供することができない(令13条1項かっこ書)。
ここがちょっと引っかかっていました。
というのも,同じ「申請人又はその代表者若しくは代理人」という文言が条文上使われている1個前の令12条↓
(電子署名)
第十二条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは,申請人又はその代表者若しくは代理人は,申請情報に電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。以下同じ。)を行わなければならない。
↑電子申請では,申請情報への電子署名は,申請情報を作成する代理人の電子署名しかいりません。
そこで,この「申請人又はその代表者若しくは代理人」という文言を次のように整理します。
「申請人又はその代表者」,代理人がいる場合は,「代理人」。
すると,先ほどの過去問の答えが変わってきます。
代理権限証明情報として提供する委任状は申請人が作成した書面であるから,代理人が申請する場合は,スキャナにより電磁的記録に記録し,作成者(代理人)が電子署名したものを送信して提供することができる。のように。
この辺りが,今回の「調査士報告方式」の登場により解釈が明らかになりました。(調査士報告方式についての解説はコチラ)
調査士報告方式では,「委任状までスキャンしたものを提供できる」というのがウリなんですね。ですが,調査士報告方式を認めた令元.10.7民二187号でも,「登記令13条1項の要件を満たした添付情報を提供した電子申請の方法による申請又は嘱託であること。」というのが要件になっていますので,「申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの並びに土地所在図,地積測量図,地役権図面,建物図面及び各階平面図」は除外されるはずです。よって,これらについては特則電子申請か特例電子申請の場合によらなければならないことになります。
でも,調査士報告方式では,「委任状までスキャンしたものを提供できる」というのがウリなんですよ!
なので,ここは解釈の変更があったととるのが相当でしょう。
つまり,書面で作成された添付情報で令第13条1項の「申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの」とは,代理人がいる場合は,代理人が作成したもののみが該当する。代理権限証明情報として提供する委任状は申請人が作成した書面であるから,代理人が申請する場合は,スキャナにより電磁的記録に記録し,作成者(代理人)が電子署名したものを送信して提供することができる。
よって,代理権限証明情報として提供する委任状は,調査士報告方式,特則電子申請により提供できる。もちろん,調査士報告方式でない特則電子申請で提供する場合は,提示も必要ですが。
(ちなみに,同様の記載は調査士会連合会発行の「土地家屋調査士」2020.2月号 No.757 頁10にもあります。)
なので,過去問平成22年度問16の答えも今後は変更になりますね!
それでは!