調査士法22条の2「業務制限」を読み解く
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<2018.06.21追記>
少し文章を修正。図も分かりやすく。
平成18年の不登法改正で筆界特定制度が新設され,秘密保持義務や業務制限の項目が調査士法に加わりました。
土地家屋調査士試験では,平成28年問22でも出題ありました,業務制限。これがなんとも分かりづらい!業務が制限されるわけですから,非常に重要なポイントになるわけなんですが,だいたいどこのテキストも条文を羅列してあるだけで,条文を読んだだけじゃ,平成23年や平成28年の問20は解けないんじゃないでしょうか。
というのも,確かに筆界特定や民間紛争解決手続(以下,ADR)の代理業務は調査士法22条の2に制限規定があるわけですが,調査士個人だったら「双方代理の禁止」(民法108条),法人の社員だったら「競業の禁止」(法37条1項)もからんできます。
(ちなみに一番丁寧に解説しているのはADR認定の時のテキストだったりします…。)
今回は,この「業務制限」についてまとめます。(以下,「法」とあるのは調査士法です。)
■すべての事件の業務制限
① 調査士が,過去に公務員として職務上取扱った事件または仲裁手続により仲裁人として取扱った事件については,業務を行ってはならない。
過去に公務員や仲裁人として取扱った事件について,調査士として業務をすることはできません。
これは,筆界特定またはADR代理関係業務だけでなく,通常の調査士業務である調査・測量や相談などのすべてを含みます(法22条の2第1項)。
で,「公務員として」というのは,どういうケースが当たるのかというと,具体例が「筆界調査委員」です。
筆界調査委員というのは,非常勤の国家公務委員ですので,調査士や調査士法人の社員が筆界調査委員として職務上取扱った事件については業務が制限されます(不登法127条2項)。
ということで,すべての事件の業務制限はこれだけです。これが大きなポイントになります。
■筆界特定またはADR代理関係業務の業務制限
① 筆界特定またはADR代理関係業務に関するものとして,①相手方の協議を受けて賛助したもの,②依頼を承諾したもの,または③その協議の程度および方法が信頼関係に基づくと認められるものについては,筆界特定またはADR代理業務を行ってはならない。
まず,依頼を「受任」している場合は,当然同じ事件の相手方から受任することはできません。これは双方代理の禁止ですね。
ですが,依頼を「受任しない場合」でも依頼者の利益保護と,職務の公正を確保するため,業務制限がかけられているわけです(法22条の2第2項1号,2号)。
「協議を受けて賛助し」というのは,相談を受け,依頼者を擁護するような見解を示したり助言をすることをいいます。依頼を承諾した場合と同程度として扱われ,その相手方から業務を受けることができません。
同様に,賛助や承諾はしていないものの,相談の程度や方法が強い信頼関係に基づくと認められる場合は,依頼を承諾した場合と同程度として扱われるため,その相手方から業務を受けることができないわけです。
例えば,Aが所有する甲土地とBが所有する乙土地との筆界について,Aから当該筆界の特定に関する協議を受けて賛助した場合,実際にAから筆界特定の代理を受任していなくても,Bから当該筆界の特定に関する業務を受任することができません。
この業務制限の規定は,調査士法人の社員または使用人であった者にも適用されます。
「であった者」ですよ?注意して読んでください。
調査士法人の社員または使用人であった者は,その業務に従事していた期間内に,自らこれに関与したものについては,調査士法人の社員または使用人でなくなった後においても,調査士個人として業務を受任することができない規定となっております(法22条の2第2項4号,5号)。
また,調査士法人は自己が現に受任している事件について,相手方から筆界特定の代理を受任できないのは当然として,調査士法人の社員も,社員の競業の禁止の規定から,相手方から筆界特定の代理を受任することができません。調査士法人の社員ではない使用人が現に受任している事件についても,相手方から筆界特定の代理を受任できません(法22条の2第2項6号)。
② 筆界特定またはADR代理関係業務に関するものとして受任している事件(書類や電磁的記録の作成業務のみを受任している場合を除く)の相手方からの依頼による他の事件
こちらは「他の事件」です。
調査士または調査士法人が現に受任している事件の相手方から依頼を受けた他の事件については業務をすることができません(法22条の2第2項3号)。ただし,受任している事件の依頼者が同意をした場合は,他の事件について業務をすることができます(法22条の2第2項3号かっこ書)。
なお,調査士法人の社員は,調査士法人が受任している事件の依頼者が同意した場合であっても,競業禁止の規定(法37条1項)が適用されるので,他の事件について筆界特定の代理をすることはできません。法人の利益になりませんからね。
この「同意をするとできるもの」と「書類や電磁的記録の作成業務のみを受任している場合を除く」の規定があるのは受任している事件の「他の事件」だけです。これも大きなポイントです。
例えば,Aが所有する甲土地とBが所有する乙土地との筆界について,Aから当該筆界の筆界特定の代理を受任している場合,Aの同意があれば,相手方であるBが所有する丙土地とCが所有する丁土地との筆界について筆界特定の代理をBから受任することができます。
この業務制限の規定は,調査士法人の使用人にも適用され,その業務に従事していた期間内に,自らこれに関与したものについては,調査士個人として業務を受任することができません(法22条の2第2項7号)。
③ 調査士法人が相手方から筆界特定手続代理関係業務に関するものとして受任している事件について,当該調査士法人の社員はADR代理関係業務を受任できない
調査士法人が筆界特定の手続によって紛争を解決しようとしている事件について,その相手側からADR手続で事件を処理することはできません。ただし,当該調査士法人がADR代理関係業務を行うことを目的とする調査士法人である場合は受任することができます(法22条の2第3項1号)。
「筆界特定」を「ADR」で解決できないということです。
例えば,Aが所有する甲土地とBが所有する乙土地との筆界について,Aから当該筆界の筆界特定の代理を調査士法人Cが受任している場合,調査士法人Cの社員である調査士が調査士法人CとしてBから当該筆界に関するADR代理関係業務を受任することができません。
ただし,当該調査士法人の社員が自ら関与している筆界特定の手続について「法務局等に提出する書類または電磁的記録の作成」を受任している場合は,単なる書類の作成なんで,相手方からの他の事件の依頼を受けることができます(法22条の2第3項2号かっこ書)。
さて,いかがだったでしょうか?
なるべく噛み砕いて書いたつもりですが,改めて平成28年問22を見てみても,難しいですね。
で,これらをまとめると下の図になります。
文字だと難しいですが,この表ならなんとかなる??